彼と私の優先順位
「いや、違わないけど……亜衣……!
何でばらすんだよ……」

チッと舌打ちしながら、慧にしては珍しく狼狽えた声。

何だか可笑しくなって思わず笑ってしまう。



「……わざとだったんだ?
何で?」

ちょっと意地悪かなと思いつつ、聞いてみる。

「……何でって……それも聞いたんだろ?」

話したくなさそうな慧。

「聞いたけど、本当にそうなのかなって」

クスクス笑いがおさまらない私に。

「……結奈、面白がってるだろ……。
あー、もう俺、マジでカッコ悪……。
……そんなの。
……結奈が好きだから、だよ」

嫌そうな態度だったけれど、きちんと返事をしてくれた。



好き、という言葉を素直に表現してくれる慧に、私のクスクス笑いがとまる。



「……あの頃も今もずっと好きだよ、結奈が。
結奈の気持ちが俺に向いてくれるように、俺を意識してもらいたくて、ずっと傍にいたし、手を繋いだりしてた。
今になって思えば随分ガキだけど。
好きになってもらいたくて傍にいたのに、いつも俺が結奈に振り回されてたよ」



慧の低くて優しい声が私の鼓膜を震わせる。

その小さな吐息までも届くかのように。

トクントクン、と私の胸が温かな鼓動を伝える。



「……結奈から目が離せなくて。
些細なことも心配になるし、気になるし。
近くにいたら声が聞きたくなるし、触れたくなるし」

一旦、慧は言葉を区切って。

私の体温を一気に沸騰させるくらいの甘い、優しい声音で。

「……ずっと俺だけの結奈でいてほしいって願ってた」

そう、呟いた。

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