あの日から、ずっと……
 結局、断る事も出来ずに井口さんと待ち合わせの時間になってしまった。

 仕事を終え帰る支度をすると、思わずため息が漏れる……


「何、難しそうな顔しているのよ?」

 浅井先輩の声に顔を上げた。


「えっ。そんな事は……」


「井口さんとデートじゃないの?」


「どうして?」


「だって、井口さん嬉しそうに、宇佐美に残業させないでくれって言ってきたからさ。それにしても、普通デートなら、女の子はもっと嬉しそうな顔するもんじゃないの?」


「べ、べつにデートじゃないですから……」


「ふーん。井口さんだっていい奴なんだけど、吉川主任には勝てないのか?」


「な、なんでそうなるんですか?」

 私は顔を真っ赤にして言ってしまった。


「いいじゃないの? 色々な男の人を見る事も大事よ。まだ、若いんだし焦らなくても……」


「そうですよね…… 泰知兄ちゃんと私じゃ吊り合わないし……」

 私は涙目で鞄を肩にかけ歩きだした。


「そうじゃなくて…… 本当好きな人は誰か? よく考えてっていう意味だったんだけど…… もう、分かっているみたいね……」


「もう、いいんです……」

 私は手で涙を拭った……


「分かったわ…… 井口さんと何処で食事するの?」


「駅前の、イタリアンです……」


「ふーん。美味しいお店だから、楽しんで!」


 そう言い残して、浅井先輩は何故かオフィスの方へ戻って行ってしまった。
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