あの日から、ずっと……
 お店に入ると、すでに井口さんは席に座っていて、私を見ると笑顔で手を上げた。


「すみせん、お待たせして……」

「ううん。俺が早く来過ぎただけ…… ビールでいい? それともワインにする?」

「ビールで……」


 注文した、チーズとピザが運ばれてきた。


確かに、美味しい……


 井口さんも話が上手くて、退屈はしない……

 ていうか、今まで、男の人と二人だけで食事なんてした事が無い……

 だから、これが楽しい事なのかどうかも、よく分からない……

 嫌では無いが、好きとか恋とかとは違う気がする……


「別に俺、宇佐美の事、無理矢理なんとかしようなんて思ってないから…… でも、吉川主任より、俺といる方が楽しいと思うよ……」

 井口さんの手が、そっと頬へ向かって伸びてきた…… 

 私の体は固まってしまい、避ける事が出来ない。


 どうしよう……


「おー! 井口じゃん!」

 声の主は、上原主任だ。

 その横には浅井先輩がニコニコと笑っていた。


「俺達も一緒にいいか?」


「えー。そんなぁ」


 井口さんは口を尖らしたが、二人は遠慮なく同じテーブルに座った。

 私は、ほっと息が漏れた……

 その後も、井口さんは「宇佐美~~。好き~~」と酔っぱらって言っては来たが、浅井先輩と上原主任のお蔭で、上手く交わす事が出来て楽しい飲み会へと変わって行った。


 少しだけ、分かった気がする。

 今は、まだ無理に人を好きにならなくていいって事だ……

 泰知兄ちゃんの事が、まだ胸の中でいっぱいなのだから……


 上原主任は、大きなくしゃみをすると、鼻をズルズルしながら浅井先輩のバッグからテッシュを出した。


「へ―。やっぱし……」

 私はその様子を見て言った。


「上原主任と浅井先輩って付き合っているですね……」


「はあ?」

 浅井先輩は、顔を真っ赤にして否定したが……


「僕は好きだけどね……」

 上原主任は、鼻をかんだ後言った。


「え―っ」

 驚いた浅井先輩の顔は、益々赤くなって可愛いい……


 私は、二人を見ていると、なんだか嬉しくなってきた……

 今夜は、この二人に変化が起きそうだ……

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