あの日から、ずっと……
 夏に近づき、早々に台風の予報が出ていた……

 雨が降り出した外を、デスクに座りじっと見つめてしまう……


「宇佐美、雨が激しくなる前に帰れよ……」

 上原主任が心配そうに、薄暗い外を見て言った。


「はい…… ありがとうございます……」


「なんなら、浅井と一緒に送っていくけど……」


「もう、帰れるんで…… 今なら大丈夫だと思います……」


「そうか? 気を付けてな……」


「はい。お先に失礼します」

 私は鞄を手に、急いでオフィスを出た……


 自転車置き場まで行って見たが、急に雨が激しくなり自転車を諦め、折り畳みの傘を広げた…… 


 しかし、強い風に煽られ上手く開かない……


 車のライトと共に、クラクションが鳴った。

「おい! 早く乗れ!」

 車から降りて来たのは、泰知だった。


「泰知兄ちゃん……」

 泰知は、ジャケットを私の頭にかぶせ、抱えるように車に押し込んだ……


 運転席に座った泰知は、濡れた頭を気にしながら車をスタートさせた。私は慌てて、バックからタオルを出すと、泰知の濡れた頭を拭いた。


「おお、ありがとう。芽衣もちゃんと拭いておけよ…… 事業部行ったら、帰ったって言うからびっくりしたぞ。なんで、待ってなかった?」


「えっ…… だって……」


「遠慮するな…… 心配するだろ?」

「うん」

 なんか、少し嬉しいけど……


「晩飯どうする?」

「えっ?」


「だって、今夜、組合の旅行で、みんな温泉行っただろ?」


「あっ! そうだった。台風大丈夫かな?」


「大丈夫だよ。今頃、温泉浸かってのんびりしているよ」

 泰知は、心配無いというように笑顔を向けた。


「そうだね……」

 私も泰知の言葉にほっとする……


「こんな雨だし、コンビニでなんか買って、一緒に食おう?」


「えっ? いいの?」


「当たり前……」


 泰知はコンビニの駐車場に車を停めた。



 パスタやら、つまみにビールやワインをカゴに入れレジに向かう。

 財布を出そうとバックを開けたが……


「こんな所で財布出すな! カッコ悪いだろ……」

 泰知は私の頭をポンと叩いた。


 私は、良く分からないが、バックを閉じ一歩後ろにさがった。


 すると、冷凍コーナーのソーダーのアイスが目に入り、思わず二本手に取ると泰知の前に出した。

「これもいい?」

 私が泰知を見上げるように言うと……


「寒いのに……」
 と言った後、何かを思い出したように、一瞬目を大きく開くと、そっけなく私の手からアイスを取りカゴに入れた。


「ありがとう……」

 私の顔は、思いっきり笑顔になった。


「そんなに、アイスが嬉しいのか?」


 泰知の、そっぽを向いて言った顔は懐かしそうに笑っていた……
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