あの日から、ずっと……
 泰知の家の駐車場に車は止まった……

 私に、何の確認をする訳でもなく、泰知は当たり前のように私を家の中に入れた。


「ねえ、おばさんや、悟兄ちゃんは?」

「母さんもオヤジも組合の旅行一緒に行ったし、兄ちゃんは、野球部の合宿で居ない」


「あっ。悟にいちゃん、高校の先生だもんね……」


「そう言う事…… 俺、シャワー浴びてくるから、メシ用意しておいて……」


「う、うん……」

 肯いてはみたが、十三年ぶりに入る家のキッチンを勝手に使っていいものか悩む……


 取りあえず、ビールとワインを冷蔵庫に入れ、アイスも冷凍庫にいれ、生ハムとチーズを盛り付けてみた。

 パスタを温め、サラダなども並べてみる……


 外の雨は、益々激しくなり、風とともに窓に当たる音に少し怖くなった…

 窓の側に近づき外の様子を見た……


 大きな木が、風にあおられ大きく揺れ、雨と共に覆いかぶさる……


 いつの間にか、シャワー浴びた泰知が、白いTシャツのラフな姿で私の横に立っていた。



「芽衣が、アメリカに行く前の日も、こんな台風だったよな?」


「覚えていてくれたの?」


「当たり前だ…… 台風がもっと激しくなって、飛行機が飛ばなければいいって思ってた……」


「えっ?」

 私は驚いて泰知を見た。

 泰知はポケットから、ごそごそと何かを出すと、私の目の前にぶら下げた。


「あっ!」

 私は思わず声を上げた。

 泰知の手には、あの時、私が渡したガラスの玉のキーホルダーがキラキラと揺れていた。


「覚えてる?」

 泰知が嬉しそうな笑顔を見せた。


「勿論。クマのぬいぐるみ、大事にしているよ……」


「本当かよ?」

 泰知は驚いた顔をして、私の頭をクッシャっと撫でた。



「腹減ったぁ。 俺の部屋で食おう……」


「うん……」


 私は、泰知と一緒に、おぼんに夕食を乗せ、泰知の部屋へと向かった。


 私は、泰知兄ちゃんが好きだったから、ぬいぐるみを大事にしてた…… 

 泰知兄ちゃんが好きだから、ここへ帰ってきたのだ…… 

 だから、全部覚えているの……


 でも、泰知兄ちゃんは? 

 何故、キーホルダーを持っていたのだろうか? 


 私は知りたくてたまらないのだが、言葉に出せない……


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