あの日から、ずっと……
 あっという間に昼休みになり、私は浅井先輩と社員食堂に向かった。

 殆どが作業着で食事をする中、数十名のスーツ姿がある…… 

 私もスーツでの仕事をしていた……


 作業着の他に、事務の制服の女性の姿も見える…… 

 制服の女性の団体の中に、スーツ姿の泰知の姿があった。

 楽しそうに、女性社員と昼食を取っていた。

 私はその姿に、心がざわつき嫌な感じがした。



 定食を手にし、浅井先輩と向き合って座った。

「宇佐美さんは、この工場を希望したって聞いたけど本当?」

 浅井先輩が疑うような目で見ていた。

「ええ。私昔、この町に住んでいたんです。祖父母も居て心配だったので……」


「ええ! じゃあ、知っている子とか居るんじゃない?」


「えっ…… でも、十三年も前だし…… 多分、覚えていないと思います」


「そっかぁ…… 私も隣り町から通っているしね…… 宇佐美さんなら直ぐ誰とでも仲良くなれるわよ……」


「いえ…… そんな事は……」

 私が不安そうに下を向くと……


「ほらね?」

 浅井先輩が、こちらに向かってくる上原主任と、その後ろに続く二人の男性に目をやった。


「ここいい?」

 上原主任がにこやかな顔で言った。


「やだって言っても座るでしょ……」

 浅井先輩が意地悪そうに上原主任達を見たが、気にする様子も無く、三人は同じテーブルに座った。


「俺、開発部の小松です。よろしく」


「僕、出荷の井口です。今夜メシでもどう?」

 作業着の男性社員の挨拶に、私は慌てて挨拶を返した。


「全く、こんな軽い男達、相手にしちゃダメだからね!」


「浅井はキツイよな…… 初対面で言わなくてもいいのに……」

 井口さんが口を尖らせた姿に、私は思わず笑ってしまった。


 その様子を食事を終えた泰知が、チラリと目を向けた事に私は気が付かなかった。





 初日の私には、残業も無く定時で職場を後にした……


 第一センターの工場へ目をやるが、勿論、泰知の姿は見えない……


 泰知は私の事、覚えているのだろうか? 


『大人になったら、帰ってきて』って言ったのに……


 私は、自転車をこぎながら、久しぶりに見た泰知の姿を思い出し、胸が熱くなっていくのが分かった。

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