ヒトツバタゴ


「お電話ありがとうございます。高梨グループ本社営業部河本でございます」


代表番号を持つ総務部からの取次ぎでない営業部への直通の外線電話は既存の取引先か営業をかけている新規企業


『お世話になります。向井商事の堀内です』


たまたま出た電話は4日前に私をしつこいナンパから助けてくれた堀内さんからだった


「いつもお世話になっております。橘でよろしいですか?」


お決まりの挨拶と外に出ようと立ち上がりかけた橘を制するべく橘の名前を口にする


電話口で自分の名前を呼ばれた橘は再び椅子に腰を下ろしこちらを伺う



『はい、あ、その前に河本さん、今晩空いてたらご飯どうですか?』



まさか…こんなところで『また』のお誘いがあるなんて…


助けられた瞬間を思い出しドキドキとうるさい心臓を押さえ「はい」と答える


『じゃあ、19時にこの前の居酒屋でもいいかな?』



仕事中に取引先の人と食事の約束をする後ろめたさもあり、「畏まりました」と仕事の話をしているような返事をして保留を押す




電話を取次ぐべく正面の席に目を向けると机の上に左肘を付き頬杖をついて真剣な眼差しでこちらをじっと見つめる橘と目が合った


「橘、外線1番に向井商事の堀内様からよ」


なんでそんな真剣な顔してんのよ

橘から目を逸らしながら受話器を置く


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