ヒトツバタゴ


決勝戦だけあって今までのどの試合よりもラリーが続く




疲れもあるはずなのに橘も吉倉さんも楽しそうにボールを回している






「さつき!!」





突然、橘の声とともに視界が遮られ、スタンドから聞こえた黄色い声と頭のすぐ後ろで聞こえたボールを弾く音



頭の上で橘がふぅと息を吐く




どうやら大也が思い切り打ったスパイクが壁で弾き反り私に直撃するところだったらしい




しっかりと橘の胸に顔を抱きかかえられる体勢に、こんな時だと言うのに私の脳みそはこの匂いが好きなのだと体に命令を出し、鼓動を速くする




解放された頭は名残惜しさを感じつつも「ありがと」と呟く



隣に座っていたはずの男性社員2人は我先にとボールが飛んできたベンチから離れていた




「大也」



弾いたボールを拾い上げた橘がスパイクを打った張本人の名前を口にする



顔は笑ってるけど、声が笑ってない



名前を呼ばれた大也は少々怯えているようにも見える



「さつきを狙うとはいい度胸してんな」



「え!?いやそんなつもりじゃ…」



慌てふためく大也にとどめの一言が見舞われる




「杏さんに報告しとくわ」




ニヤリと笑ってボールを相手コートに送る橘



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