ヒトツバタゴ


取次いだはずの電話に出ようとしない橘


早く出なさいよと文句を言おうと橘に目線を戻すと体勢も表情も先ほどと変わらぬ状態で思わず眉を顰める


そして私が催促の言葉を発する前に不敵な笑みを浮かべようやく手を動かし、ボタンをひとつ押して手元の受話器を上げる


「お電話変わりました橘です。」


いつもの爽やかな笑顔に戻り話し始める橘


…と思ったら口元は笑っているけど、またあの目をこちらに向ける


目を逸らし自分の仕事に戻る


19時に店ということは18時半には出なきゃ間に合わない


出る前に化粧を直すことを考えると残業ができたとしても1時間弱…


ここ最近調子のいいチームの営業達のおかげで私は大忙しで、今日までに終わらせて起きたい仕事が山積みなわけでボーッとしている時間なんてない



電話を終えると橘は行ってきますと出ていき、こっそりとふぅとひとつ息を吐く




一人残された島で猛烈に集中し仕事を片付けていく




定時を45分程過ぎ、今日までに終わらせたい仕事はなんとか片付けた


島には橘以外の営業が戻ってきていた


パソコンをシャットダウンし、鞄を持ち「お疲れ様です。お先に失礼します」と声をかけオフィスを出てお手洗いへ向かう


一応6階にロッカールームはあるが、最初の2週間で使うのをやめた


男性の目がないそこは妬み嫉み噂話のパラダイスで、橘と大也と仲のいい私はロッカーが荒らされてない日なんてなかった


着替えとかは置いておけないけど、最低限の物を入れた鞄一つデスクの足元に置いておけばいい


< 11 / 178 >

この作品をシェア

pagetop