ヒトツバタゴ
「吉倉さん、そろそろお酌しに行こうか」
乾杯後のお酌ラッシュが落ち着き、懐石料理のメインである台の物が来る前に吉倉さんを連れてチームメンバーと営業部の課長、部長へお酌をしに立つ
「俺も行く」
そう言って、手元にあった瓶ビールを持ち立ち上がる橘
お酌をして他愛ない話をして、順調にお酌を終わらせていく
「さつき、吉野さんにも挨拶しておこう」
一通りお酌を終えて席に戻ろうかというところで橘が役員の座る上座に近い端っこの位置に座る吉野さんに目をやる
「そうね」
吉野さんにもお世話になってるし、お酌しとかなきゃね
「やあ、お疲れ様」
吉野さんの席に寄るといつもの爽やかな笑顔に迎えられる
既に多くのお酌を受けた様で、お膳の周りにビールの空き瓶がいくつも転がっているのに顔色一つ変えていない吉野さん
この人に弱点はないんだろうな…と橘と顔を見合わす
「吉野さん、お疲れ様です。先程はお気遣いありがとうございます。」
部屋を配慮してくれたことの礼も述べる
「とんでもない。僕の不手際で申し訳ない。それより、吉倉さんの足は大丈夫?」
あくまでも不手際だと強調し、吉倉さんを見遣る
「はい!すぐに冷やしていただいたので、激しく動かなければ痛みももうないです」
相手が社長秘書ということにやや緊張気味に吉倉さんが答える
「それは良かった」
爽やかに微笑む吉野さんにもお酌を終わらせて、役員にもお酌をしていくと言う橘と別れ席に戻る