ヒトツバタゴ


幸い大きい会社のここはお手洗いの中にパウダースペースもあり化粧直しも困らない



化粧を直しエレベーターで1階まで下りる



「さつきお疲れー」


エレベーターを降りるとちょうど外から戻ってきた橘がエレベーター待ちをしていた


「お疲れ、お先に」と通り過ぎようとすると「さつき」と名前を呼ばれ足を止める


「襟曲がってる」と私に近づき襟を直してくれた


今日は襟付きのブラウス…私は傷跡を隠すためいつだって首元まである服を着る


高校の時の制服はブレザーだったからみんながカッターシャツの第一ボタンを外していても私は上まできっちりと閉めていた



中学の時はセーラー服だった


襟元が空いているセーラー服は苦痛でしかなかった


だから基本的に学校指定の体操服とジャージで登下校も授業中も過ごしていた


卒業式だけは制服で出てと担任に懇願され、体操服の上から制服を着るという案で妥協してもらった



「これから堀内さんとデート?気を付けてね」


私の襟を直した橘は私の耳元でそう言い、エレベーターに乗っていった



『堀内さんとデート』が脳内でリピートされ動きを速める心臓に「鎮まれー」と心の中で念じながら駅へ向かう


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