ヒトツバタゴ


店に着くと19時少し前だったけど、既に堀内さんは席に座っていた


「すいません、お待たせ致しました」


「俺も今来たとこですよ」


待たせた詫びをすると前回にも見た愛嬌たっぷりな笑顔で返される



前回と同じようにビールと肴を頼み楽しく食事が進む


他愛のない世間話


面白い同僚の話


最近読んだ本の話


旅行した話…



話は尽きることなく、いい感じにほろ酔いで店を出ると店の横にある細い路地へと引き込まれる


路地の奥は暗く先は見えない


ほんのりと通りから灯りが届くところで止まり背を壁に縫い付けられる


顔を上げると優しくも真剣な眼差しと目が合う






近付く距離に考える




この人に私は全てをさらけ出せるだろうか



体に残る傷跡を…


趣味で溢れたあの部屋を…






あと5センチ程のところまで近付いていた堀内さんを両手で押し返し距離を作る



「ごめんなさい」


出てきた答えは否


さらけ出せる程この人のことを知らない


さらけ出したとしても受け入れてもらえる自信もない




「何を勘違いしてるの?」


目を細め私の両腕を掴み壁に押し付け再び距離を縮める堀内さんの表情は先程までの優しいものではなくなっていた




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