ヒトツバタゴ



「おたくの小さいの…積極的すぎない?」


開けられたままだった戸から出る直前に早川さんから投げられた言葉



吉倉さんと何かあったのだろう




「彼女は肝が据わった子ですよ。珍しいですね、早川さんが他人に興味を持つなんて」



戸に手を掛けて早川さんを振り返ると不敵な笑みを浮かべていた



「それもそうだな。お前の姫もあれくらい積極的なら苦労しないのにな」



クスクスと笑う早川さんに苦笑いを見せて歩を進め、戸を閉め自分の部屋へ足を向ける






早川さんの言うようにさつきがもっと積極的だったら、容易く手に入っていたかもしれない



でも、俺に見向きもせず他の男のモノになってた可能性の方が高いかもな






首を振って嫌な妄想を追い出して部屋の鍵を開けて中に入る




まだ誰も戻ってきていないらしい




電気を点けて食事中に敷かれた布団を避けながら部屋の奥の窓際に置かれた椅子に掛ける



ポケットから取り出した携帯には吉倉さんからの連絡は入ってないから、さつきは部屋にいたんだろう




椅子が窓際過ぎて、邪魔なカーテンを開けると眼下に見えるオレンジの灯に照らされた雪が積もった木



あぁ




ここからも見えるんだな




中庭のヒトツバタゴ







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