ヒトツバタゴ


「大学の頃からメル友だからな」


クスクスと笑いながら部屋の鍵を開けてドアを開けてくれる



『メル友』って辺りに大家さんの年齢を感じるけども…




私と違って世渡りが上手い橘の交友関係については深く追及しても疲れるだけだろうから、ありがたく乗っかっておこう





部屋の中に進むと、やはりそこらの安いビジネスホテルとは違ってラグジュアリーな造り




ん?




「ベッドが2つある…」



見間違いではなく確かにそこにセミダブルサイズのベッドが2つ並んでいる



「一緒のベッドが良かった?積極的だな」




「ち…ちがっ…」



立ち竦む私の肩に顎を乗せ、笑いを含んだ声音に言葉の意味を想像して体が熱くなる




「橘まで泊まる必要ないでしょう?」



心の中で自分に「冷静に!」と言い聞かせ疑問を投げ掛ける




「俺の家は燃えてないけど、さつき、一人にしたら一人で泣くだろ?」




体の向きはそのままに、橘の腕が私を抱き締める



さっき一人で泣きそうになっていた私は橘の言葉を否定出来ず、唇を噛み締め俯くしかできない




「もう一人で泣く必要ないだろ」





橘の手によって向きを変えられ、橘の胸に顔を埋められる



今まで堪えてきたものが溢れ



橘の胸を濡らしていった





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