ヒトツバタゴ
「おふたり一緒に住むんですか?」
私と橘のやり取りを見ていた一同を代表して、安達くんが質問をしてきた
「日曜日に懇親旅行から帰ったら家が全焼してたから、新しく借りたのよ」
橘名義だけど
苦笑しながら、敢えて安達くんの質問には直接答えずに濁す
「え?全焼ってまさか、日曜にニュースでやってた放火の犯人が向井商事の…」
安達くんと私のデスクに挟まれた吉倉さんが声をあげる
「それだよ。だからさつき一人じゃ危ないだろ?」
仕事に集中し始めたと思っていた橘が顔をあげ、わざわざ一緒に暮らすことを肯定しやがった
はぁと溜息をひとつ吐いて、「お先に失礼します」と逃げることにした
社内で色んな人に絡まれる前に帰ってしまおう
はぁ
新居への帰り道、再び溜息を漏らす
明日の朝には社内中に広まるだろうことが予想される
うつむき加減で歩いていると、和菓子屋の歩道に立てられた看板が目に入った
あ
そうだ
引越しの挨拶に和菓子買っていこう
足を止めることなく和菓子屋に入る