ヒトツバタゴ


橘の言葉の意味がわからず、吉倉さんと目を合わせ首を傾げるといつの間にか背後にきていた吉野さんの声が降ってきた




「ヒトツバタゴですね」




驚いて後ろを振り返るといつもの微笑みの吉野さんが立っていた




「おはようございます」と微笑みを崩さず言う吉野さんにみんな揃って挨拶を返す




「河本さん、社長がお呼びですので、僕といらしていただけますか?」




吉野さんの言葉にその場の全員が固まる




「っ…社長ですか…」




なんとか絞り出した声もわずかに震えた




何かやらかしたのか…頭の中で最近の業務を思い起こす




そんなに接点のない社長は穏やかな人だけれど、仕事に関しては厳しい目を持っていることは社員なら誰もが知っている…はず




「悪いお話とかではないので、そんなに緊張なさらないでください」




苦笑して言った吉野さんの後に続きみんなに好奇の目で見送られながら、営業部をあとにする








社長室のあるフロアでエレベーターを降りて、連れられたのは社長専用の応接室




ここは社長のお客様の対応にしか使われず、一般の社員が足を踏み入れることはまずない






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