ヒトツバタゴ
照れながら笑う社長の言葉に辺りを見渡すと、壁に飾られた写真に目が止まる
飾られているのはどれも風景だったり静物の写真だけど、杏さんらしい綺麗な写真ばかり
この中に私の写真が…
「構いません」
以前なら断っていたかもしれない
でもこの写真なら、見てほしいとすら思える
「ありがとう」
そう言ってジャケットの内ポケットから白の封筒を取り出しローテーブルの私寄りに乗せる
「いつも写真代を日下さんに渡してるのだけど、今回はいらないから君に渡してくれとキッパリ断られてね」
苦笑する社長に「いただけません」と慌てて首を振る
私はただの一社員で、撮ったのは杏さんなのにお金なんてもらえない
「そう言うと思って、Nホテルのレストランのディナーを手配したから、橘くんと行ってくれ」
「付き合ってるんだろう?」とニヤリと笑う社長の言葉に瞬時に顔に熱が集まるのがわかる
白い封筒を受け取り、クスクスと笑う吉野さんにエレベーターに乗り込むと「楽しんできてね」と見送られた