ヒトツバタゴ


照れながら笑う社長の言葉に辺りを見渡すと、壁に飾られた写真に目が止まる




飾られているのはどれも風景だったり静物の写真だけど、杏さんらしい綺麗な写真ばかり




この中に私の写真が…






「構いません」




以前なら断っていたかもしれない



でもこの写真なら、見てほしいとすら思える




「ありがとう」



そう言ってジャケットの内ポケットから白の封筒を取り出しローテーブルの私寄りに乗せる



「いつも写真代を日下さんに渡してるのだけど、今回はいらないから君に渡してくれとキッパリ断られてね」





苦笑する社長に「いただけません」と慌てて首を振る



私はただの一社員で、撮ったのは杏さんなのにお金なんてもらえない




「そう言うと思って、Nホテルのレストランのディナーを手配したから、橘くんと行ってくれ」



「付き合ってるんだろう?」とニヤリと笑う社長の言葉に瞬時に顔に熱が集まるのがわかる










白い封筒を受け取り、クスクスと笑う吉野さんにエレベーターに乗り込むと「楽しんできてね」と見送られた






< 167 / 178 >

この作品をシェア

pagetop