ヒトツバタゴ
たくさん並べられた料理を小皿に取りながら口に運ぶ
本当にどれも美味しくて、毎日食べられる佳香さんが羨ましいと思ってしまう
「さて、さつきちゃんの話を聞きましょうか」
まだ食べ始めたばかりのところで杏さんがニヤニヤと切り出す
佳香さんもニヤニヤと頷いている
うん、この空気知ってる…
女子特有の恋バナを吐かせる時の空気
「え?何がです?」
2人の追及を逃れられるとは思わないけど、とぼけてみせる
「とぼけても無駄ですよ〜こうちゃんから報告上がってますから」
『こうちゃん』とは佳香さんの旦那さんの吉野さんのこと
うふふと笑ってニヤニヤが止められない佳香さんは続ける
「朝の電車での距離が近くなってるって」
朝の電車…
毎日ギュウギュウ詰めの車内で橘に隔離されている状況を思い出し急速に顔に熱が集まるのがわかった
「えっ?あっ…朝の電車って、な、なんで吉野さん知ってるんですか」
近付いた橘との距離と橘の匂いを思い出し動揺する
「その焦り様は何かあったのね」
すかさず杏さんが逃げ道を断つ
ニヤリと唇の片側だけを上げ、くっきりとした二重の綺麗な目が細められ私を捕らえる
「やっぱり気付いてなかったんですね。こうちゃんも毎朝同じ電車なんですよ〜」