ヒトツバタゴ


「俺も吉野さんの料理食べたかったです」


橘の言葉に吉野さんは驚いたようで、1度目を見開きチラリと私を見てまたすぐに橘に微笑む



「良かったね」



私が毎回橘にお裾分けしていることを知っている吉野さんが橘に発した言葉の意味がわからず首を傾げる


橘は今回はお裾分けがなかったと言っているのに『良かったね』とは???


言われた本人は大きくため息を吐いて「今度、大也とお邪魔しますね」と肩を竦めて見せる



吉野さんはクスクスと笑いながら戻ってきたエレベーターに乗り込み、後輩である私達を差し置いてボタンの前に立つ


そこは後輩ポジションですよーーー!と心の中で叫んだが、すでに営業部のある4階と吉野さんの目的地である秘書室のある21階のボタンが吉野さんの手によって押されていた


そして他にも乗り込んでくる社員の顔を見てその社員の降りる階を言われる前に押していく


さすが社長秘書…凄すぎる



4階で降り立ったエレベーターホールで橘と顔を見合わす


橘も同じことを感じたらしい


大也の言葉が思い出される



『吉野さんだけは敵に回しちゃいけない』



橘と頷き合い、営業部のオフィスへと入っていく



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