ヒトツバタゴ
橘が毎朝ギュウギュウ詰めの電車の中で私のパーソナルスペースに入る日々は続き、戸惑う気持ちと心地よさが交錯する
そんな中、GWへ突入した
GWは実家で可愛い甥っ子と遊ぼうと決めていた
飛行機のチケットが売り切れる前に取れてよかった
GW初日の空港は人でごった返していて、人に酔いそうだ…
毎朝ギュウギュウ詰めの電車に乗っているのに、橘に隔離されていないだけでこんなにも違うなんて
チェックインと検査を終え出発ロビーで搭乗の順番を待つ
この人の多さにベンチが空いているはずもなく、比較的人が少ない壁際で壁にもたれて行き交う人をボーっと眺める
あー
気持ち悪くなってきた
人混みを見てるのがいけないのだと目をとじると聞き慣れた心地いい声が降ってきた
「さつき?」
いつの間にか私はこの声すらも心地いいと感じていたのね
目を開けると毎朝の電車の中の景色
つまり橘の肩
「人に酔った?顔色悪いよ」
耳をくすぐる息が幻でないことを示す
「うん、大丈夫」
橘の肩で人混みが遮られたから
いつものように隔離された空間に体は落ち着きを取り戻す
「実家帰るなら言ってくれればいいのに」
そう言う橘も実家に帰るのだろう
地元が同じなんだから目的地は一緒だけど、橘から離れて『理由』を考えてみようなんて思ってたのに
結局、橘にも会ってしまったし、私の体は心地いいのだと主張する