ヒトツバタゴ
前の黒板に指示された出席番号順に並ぶ席へ座る
窓側から2列目の一番後ろ
ラッキーと心の中でピースをして鞄を机の横のフックにかけると右隣から声がかけられる
「隣?俺は橘幸太郎、よろしくね」
鞄をかけていた姿勢のまま顔だけ隣へ向けると、なんとも整った顔が爽やかに微笑み手を差し出している
「河本…よろしく」
握手を求めていたのだろうけど、無視して正面に向き直る
「下の名前は?」
めげずに机の上に置いていた私の手を掴み無理やり握手させる橘
その大きな手はとても温かかったけど、その時の私には不快でしかなかった
手を振り払うように引っ込めて「さつき」とだけ答えた
その場ではそれ以上話しかけてこなかったけど、入学式のために体育館へ移動するために立ち上がった時にポケットから取り出した物を再び私の手を掴み握らせた
「体育館冷えるからね」と渡されたそれは、程よく熱を発している貼らないタイプのホッカイロだった
すぐに突き返そうとしたのに、すでに移動を始めていて返しそびれた
おかげで式の間に冷えることなく過ごせたけど、結局お礼も言わないまま