ヒトツバタゴ


そのままフレームに胸から上が入るように動かすと杏さんから耳元で囁かれる




「橘さんのことどう思ってるの?」




突然の杏さんの言葉にシャッターを押し込むまでの一瞬の間に一気に沢山の感情を思い出す





ピンチには必ず助けてくれる橘



橘の匂いが好き



仕事中にたまに真っ直ぐに向けられる真剣な眼差しへの戸惑い



通勤電車での近すぎる距離と激しく反応する心臓



私のパーソナルスペースの最も内側に入るとこができる橘に感じる心地よさ



私のことを誰よりも知っているだろう橘とその声の心地よさ



橘の存在に心地いいのだと訴える私の全身



ドキドキと鼓動を速める心臓



橘が誰かと結婚して父親になるのだと考えた時のモヤモヤとした感情




あれ?




私って…




カシャというシャッター音に杏さんが私の手からカメラを取り上げ画像を確認する



画面を見て満足気に微笑む杏さんは私が撮った橘の写真から答えを貰ったのか、先程問われた答えは私の心の中で消化される




私は…



橘が好きなんだ…




潜んでいた気持ちを自覚すると今更恥ずかしすぎて顔を逸らしグランドを見つめる


ラグビー部の休憩が終わり、大也から杏さんに果奈ちゃんが渡される微笑ましい家族の姿を視界の端に捉えながら、ドクンドクンと大きな音を立てて速度を速める心臓の音が橘に届きませんようにと祈る




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