ヒトツバタゴ
日がだいぶ傾き空はまだ明るいけれど、冷たい風が火照っていた体を冷やしていく
「さつき、冷えてきたし帰ろっか」
橘の言葉に眠ってしまった果奈ちゃんを抱く杏さんに「お先に失礼します。また向こうで」と挨拶して立ち上がる
笑顔で手を振る杏さんに同じように振り返しその場を後にする
大也を見るために集まっていた生徒達もだいぶ減っていた
橘を好きなんだと自覚したせいでいつも通りの距離で隣を歩いているだけでドキドキと心臓が煩い
隣を見るのが恥ずかしくて家までの道のりをずっと足下を見て歩いた
夜、自室に1人でいるとスマホに杏さんから写真が2枚送られてきた
1枚目は杏さんが撮った橘の写真
カメラに向かって微笑む橘のいつもの杏さんの綺麗な写真
2枚目は私がシャッターを押した写真
設定も構図も杏さん撮ったものと変わらないはずなのに…
橘への『好き』が溢れている
杏さんがよく使う言葉を借りるなら、『萌えフィルターで三割増』というやつ
写真を撮った人物が写っている橘のことが好きなんだとわかってしまうその写真に一気に顔が熱くなるのがわかり、スマホの画面を消して布団に潜る
ドキドキと煩い心臓に今夜も無駄に寝返りをする