ヒトツバタゴ
人混みの中、知らない男2人に進行方向を塞がれた
「お姉さん1人で買い出し?」
「重いでしょ?持ってあげるよ?」
伸ばしてきた手から逃れるように後ずさり「結構です」と断りを入れるも「遠慮しなくていいよ〜」と距離を詰めてくる
「さつき!」
私のピンチにやっぱり現れた橘
「ごめん、遅くなった」
珍しく息を切らしているのは私のために走って来てくれたから?
私の手からビールの入った袋を奪いもう片方の手で私の手を掴み、みんなが待つ場所とは違う方へ歩き出した
「ちょ…橘、方向が違う」
「知ってる」と返された低い声に理由を尋ねることもできず、ただ引っ張られるままについていく
花見客から離れた木の陰のベンチに座らされる
この辺りだけ桜の木はなくて、遠くから風に乗って花びらが舞っているだけ
「ごめん」
橘の言葉に俯いていた顔を上げ隣に座る橘を見ると真っ直ぐと私を見る橘と目が合った
「さっき和幸に言った言葉」
なんだ…気付いていたのね
胸の奥が再びチクチクと痛み出す
「さつきを守るために言ったのに、さつきを傷付けたら意味無いよな」
自嘲する橘はどうしていつも私を守ってくれるのか…
「いいのよ本当のことだし」