ヒトツバタゴ
存在―橘side―

〜燻る想い〜



いい加減、俺の存在に気付いてくれないかな…



毎朝の日課となった満員電車で押し合い圧し合いの人混みから電車のドアに手を付いてさつきを守る



電車に乗る直前に言われた俺の取引先の担当者と飯を食べたという話にため息が漏れる




相手が悪い





前任者から引き継がれた取引先だが、担当者が女癖が悪いと聞いていた



前に一度どうしても交渉記録が必要で同行させたことを激しく後悔する





俺の腕の間でそっぽを向くさつきは誰が見ても美人だ







高校の入学式の日に教室の戸を開けて入ってきたさつきにその場の全員が目を奪われた


隣の席だったさつきに女の子がいつも見惚れてる笑顔で自己紹介したのになんとも素っ気なく返された



それが面白くて毎日のようにさつきに付き纏い、常に隣にいた



最初はウザがられていたけど、諦めたのか慣れてきたのか段々と相手をしてくれるようになった



そして気付いた


この子は人付き合いが得意ではないだけなのだと


夏の水泳の授業で常に見学していたさつきに理由を尋ねた時にその理由もなんとなくわかった



「小さい頃に心臓の手術をしてここに傷跡があるの」

そう苦笑して傷跡のある箇所を指でなぞり示された


それが彼女の負い目になっていることにも気付いた



それでも一学期が終わる頃には仲の良い友人という座を獲得していた

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