ヒトツバタゴ
もっと早く気付いていたら、さつきが傷跡を見られる前に助けられたのに…
ジャージのチャックを首元まで上げてやると隙間から目に入ったさつきの傷跡
全部が見えたわけじゃないけど、夏にさつきが表現していた程のグロテスクさではない…何も知らずに見たら驚くかもな
俺の大きいジャージによって黒い塊となったさつきが顔を上げるといつも綺麗なさつきの顔は涙でグチャグチャになっていた
それすらも可愛いって思う俺はさつきに惚れてんだなって、こんな時に気付く
「どうして私なの?どうして傷があったらダメなの?」と泣きながら問うさつき
困ったなぁ…
今気付いた想いに苦笑する
どうしたって俺はさつきが好きみたいだし、傷を見たってその気持ちは揺るがないみたいだ
「俺はさつきじゃないから、さつきの思うことまではわかんないけど、この手術があったから今俺の前にさつきがいて、高校生活もそれなりに楽しいんだけど、それじゃダメ?」
気の利いた言葉なんて思い付かないし、こんな時に告白することもできないから、とりあえず事実を述べる
首を振ったさつきに胸をなで下ろし、この状態で1人で帰らせられないので、送っていくことにして部室から上着だけ持ってさつきと学校を出た