ヒトツバタゴ


下りてきたエレベーターにちょうどさつきが乗っていた


ご丁寧に化粧直しまでしてあるから、間違いないだろう


左手で仕事用のスマホを操作して自分の番号に発信してスピーカーモードにする


「お疲れ、お先に」と通り過ぎようとしたさつきを呼び止めて、さつきの服の襟を直す振りをしてさつきの鞄のポケットにそのスマホを忍ばせる



後は自分のスマホにきている着信を通話にしてイヤホンを付け、インストールしといた通話録音アプリで録音すれば良しと



自分の席に戻り、イヤホンから情報を得ながら午後に獲得した受注分と新規契約の入力をしていく



降りた駅名が聞き取れて、駅からすぐの居酒屋に入っていったみたいだから場所はあそこかなーなんて目星をつける



程良く飲みながら途中荷物を置いたままお手洗いに席を立ったさつきに、信用しすぎだろ!と心の中で突っ込む


さつきが戻ってきていないのにガサゴソと鞄を漁る音に、ほら見ろ!と思うのと同時にスマホの存在がバレないことを祈る





いつもなら1時間もあれば終わるような仕事が捗らず2時間もかかった


情けな…


苦笑してデータをさつきのパソコンに送り帰る準備をする



まだ残っていた他の島の人に挨拶をして、急ぎ足で会社を出る




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