ヒトツバタゴ
「今日はジャージじゃないから上まで隠せないけど」と思わず苦笑する
そういや、あの時のジャージは結局返してもらってなくて、失くしたって言って怒られながら新しいのを買ってもらったっけ
「遅いのよ。もっと早く来なさいよ」
そっぽを向くさつきだけど、俺が来るって期待してくれたってこと?
10年前も今日も助けたのは俺だってわかってる?
さつきの本当のヒーローは俺しかいないでしょ?
さつきを立ち上がらせて、強く肩を抱き寄せ歩くと「近すぎ」と文句も言われたけど、今日くらいいいだろとさつきを見ると胸元から傷跡が覗いているのに気付く
「酔った振りしてくっついてブラウス押さえとけよ」って言えば大人しく胸元を押さえて俺に抱き寄せられたまま歩く
さつきの一番近くにいるのは俺なんだって早く気付けよ
さつきを家に送り届けるまでくっついていたせいで週末は悶々として過ごすことになった
その憂さを晴らすべく月曜の出勤時の満員電車ではいつも伸ばして距離を保っていた肘を曲げてさつきとの距離を縮めた