ヒトツバタゴ
でも顔色が悪い
慌てて人混みをすり抜けてさつきに近寄る
「さつき?」
目を伏せたさつきの名前を呼び、毎朝の満員電車でやっているようにさつきの視界に人混みが入らないように囲う
「人に酔った?顔色悪いよ」
薄らと目を開け「うん、大丈夫」と答えたさつきが落ち着いて呼吸繰り返していくのを確認した
「実家帰るなら言ってくれればいいのに」
そしたら始めから俺が人混みから守ってやれるのに
さつきが俺の言葉に返事をすることなく搭乗のアナウンスが流れ、さつきと同時に動き出す
「さつきもこの便?」
さつきの隣を指定したのだから、当然同じ便なのだけど、偶然を装う
無言で頷き歩き出すさつきと共に飛行機へ乗り込む
座席につくとさつきからため息が漏れる
避けようとした俺が隣にいるんだから無理もないか
窓にもたれ掛かり寝た振りをしているさつきは離陸してまもなく本当に眠ってしまっていて、規則正しい寝息が聞こえる
さつきの脚の上に乗っていた左手を右手でそっと取る
出会った日と変わらず冷たくて小さな手
優しく握ると握り返してきて笑みを零す
この手が
さつきの全部が
早く俺のものになればいいのに