ヒトツバタゴ
さつきが俺に向けられたカメラを覗き込みシャッターを半押しした瞬間に杏さんはさつきに何やら耳打ちをした
俺には聞こえなかったけど、シャッターを押しカメラを取り上げられたさつきの顔が赤くなっていくのを見逃さなかった
顔をグランドの方へ背けても、風に靡く髪の隙間から見える耳までもが赤い
さつきをここまでにする杏さんの言葉
その答えはきっと俺が一番欲している言葉
画像を確認して満足気に笑う杏さんと目が合うとその表情は不敵な笑みへと変わる
ふむ、これは俺に写真を見せてくれるつもりはないらしい
ま、さつきの中で気持ちの変化があったことが明確だから収穫だろ
土曜日は早朝から家族で花見に行くと言い出した両親に場所取りを命じられ、渋々近所の桜祭りをやっている公園へ歩いて行った
屋台が並んでいる通りに近い花見スペースは既に埋まっていて、随分と奥の方の大きな桜の木の下に空いている箇所を見つけ持ってきたブルーシートを広げ真ん中に胡座をかいて座る
「にいちゃんも1人で場所取り?」
隣で先に場所取りをしていた少し歳上と見られる男性から声を掛けられた