ヒトツバタゴ
「橘くん」
屋台が並ぶ通りの手前で面倒な女に呼び止められた
今は急いでて藤川の相手なんてしたくないんだよ…とは言えず、笑顔を貼り付け振り返る
「偶然ね、良かったら一緒に飲みましょう」
甘ったるい喋り方で近付いてくる藤川に「ごめん、急いでるんだ」と断る
「河本さんを探してるの?あっちで見たわよ」と笑みを浮かべ屋台が並ぶ通りの右方向に指で指し示した
礼を述べ人混みを掻き分けて走りながらさつきの姿を探す
よくさつきに邪魔扱いされる自分の身長の高さがこんな時は役に立つ
でも、おかしい…
暫く走り、長く続く屋台に違和感を覚えた
今通ってきた屋台の中にもビールを売っている所はあったのに、さつきはいなかった
重いものを買うのにわざわざそんなに遠くの屋台で買うか?
そして思い出したのは、さつきはこっちだと言った人物が誰なのかということ
妖艶に微笑む藤川の顔を思い出し、チッと舌打ちをする
さつきのことを妬む藤川の言葉を鵜呑みにした自分にも虫唾が走る
来た道を戻り、屋台が並ぶ通りを反対方向へ進む
そして見付けたさつきはまた知らない男達に絡まれている