ヒトツバタゴ


入力されたデータのチェックを終わらせ、管理部へ送信してパソコンの電源を落とし伸びをする




デスクの足元から鞄を持ち、橘と同様に「お疲れ様です」と声を掛けてエレベーターに向かっていた足をエレベーター横の階段へと方向を変える


この時間はエレベーターが混み合うから階段の方が速い





1階まで階段を下りてエレベーターへ出ると既に橘は待っていて、管理部から付いてきたらしい見覚えのある女性社員達に囲まれていた





胸の奥でチクチクと疼く



彼女達のように好意を表現できたなら橘は受け入れてくれるだろうか



それとも拒否されて友人という関係すらもなくすのだろうか




囲まれている橘に声を掛ける勇気はなくて、その前を歩き通り過ぎる



「さつき」



自分の周りにいた女性社員達にごめんねと言いながら私の隣までやってきて歩調を合わせ、私の肩を抱く



いつも橘は絡まれているとこうして逃げる




期待なんてしない




なのに速度を速め煩く響く心臓は嬉しいのだと主張する






「ちょっと行きたい所があるから付き合ってよ」


会社を出て私の肩を解放した橘が言う



私の返事は聞かずに駅までの道のりを歩き家とは逆方向の電車に乗り込む





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