ヒトツバタゴ
「テレビかどうかはわかんないけど」
クスクスと笑う橘に「景品待ってるわ」と顔を背ける
「任して」
耳元で囁かれ全身の血液が顔に集中していくのを心の中で落ち着けーと繰り返す
電車を降りても引かない血液に顔を俯かせて歩く
忙しく業務をこなせばあっという間に訪れる週末
懇親旅行参加者は早朝に本社に集合し、大きなバスに乗り込み目的地へと向かう
「河本さん、噂で聞いたんですけどレクリエーションで優勝すると男性は河本さんと女性は橘さんと1日デートできるって」
バス後方の窓側の席に座る私の隣に座っている吉倉さんが他の席から回ってきたお菓子を頬張りながらこちらをまじまじと見ている
吉倉さんとは仕事中だけでなくランチも共にしているので懇親旅行いらないんじゃないかっていうくらい馴染んできていた
「なにその噂…」
額を手で押さえ、はぁと漏れるため息
本人の許可なく景品にしないでよ
「あ…やっぱりただの噂なんですね」
それを見ていた吉倉さんが苦笑する
「本当だよ」