君と会う時は
「あ!」
美花は変な広告を踏んでしまったかと思ったが、映し出された画面に釘付けになってしまった。
そこに映っていたのは、明治の風情が漂うレトロな洋館。その洋館の玄関には、『明治 浪漫堂』と刻まれている。洋館の両隣には、同様の昔懐かしい建物が並び、川の上には異国情緒のある短い橋が架かっている。
僅かな写真しかそのHPには載っていなかったが、美花は心の底から熱いものがこみ上げてくるのを感じた。
「・・・素敵」
何年ぶりかの単語が口からこぼれた。
ああ、私はこんな場所が好きだったのかと、美花は感動に似た興奮を覚えた。
むさぼるようにHPの掲載文を読んでいくと、写真の建物の全貌が分かってきた。
『日本文化と歴史に彩られた街、京都。その伝統ある都の片隅には、明治時代の街並みをそのまま残した通称・浪漫街が人知れず存在しております。ひとたび足を踏み入れれば、誰もが時間を忘れ、ノスタルジィな夢の世界でいやしの一時を手に入れることができます』
『浪漫堂は、明治初期に政府の手によって建設され、異人のお客様をお迎えし、毎夜盛大な宴が催された歴史あるホテルでございます』
『魅力あふれる明治の世界に、貴方をお連れします』
夢の世界・・・いやし・・・・今の自分にとって重要なキーワードが、いくつも出てきた。
この街に行けば、日頃の疲れを忘れることが出来るのでは無いかと、妙に確信が持てた。
何もかも忘れた時間を過ごせば、素の自分が誰で、どんな人物だったのか、思い出せるような気がしたのだ。
美花は浪漫堂からあふれ出す重厚な雰囲気に魅了されるがまま、ホテル予約のアイコンをクリックした。
お盆に部屋があいているかどうかは考えなかった。
数分前までの美花より、今の美花ははるかに元気になっていた。