プルースト
「宮原さん…?」
声をかけるのをためらっていたからって、そんな。
先輩がこちらを見ずとも私がそこにいることを当ててきて。
「あ、当たった。座りなよ」
そう言って前の席へと促すから、私はやっといつもの定位置にちょこんと収まる。
後ろから見ても前から見ても、先輩は。
「雨、すごいね」
「はい」
沈黙。いつもの、先輩のペンを走らせる音。
私の、本をめくる紙の音。
私は先輩と付き合いたいだなんて
そんな大それたことこれっぽちも願っていない。
私はここで静かに先輩のことを好きでいれたら、それで十分満足なのだ。
先輩はこんな、図書館で会うだけの年下の女の子にさえ、優しく笑ってくれるのだから
きっと、学校ではもっと様々な面を見せているんだろう。
それがすこしだけ、ほんの少しだけ寂しいと思ってしまうのも
きっと私の我儘に違いない。