プルースト

「宮原さん…?」


声をかけるのをためらっていたからって、そんな。
先輩がこちらを見ずとも私がそこにいることを当ててきて。


「あ、当たった。座りなよ」


そう言って前の席へと促すから、私はやっといつもの定位置にちょこんと収まる。



後ろから見ても前から見ても、先輩は。


「雨、すごいね」

「はい」


沈黙。いつもの、先輩のペンを走らせる音。
私の、本をめくる紙の音。



私は先輩と付き合いたいだなんて
そんな大それたことこれっぽちも願っていない。
私はここで静かに先輩のことを好きでいれたら、それで十分満足なのだ。

先輩はこんな、図書館で会うだけの年下の女の子にさえ、優しく笑ってくれるのだから
きっと、学校ではもっと様々な面を見せているんだろう。
それがすこしだけ、ほんの少しだけ寂しいと思ってしまうのも
きっと私の我儘に違いない。
< 10 / 28 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop