プルースト
「桜」
ふと先輩が呟いたその声は、紡がれたその単語にとてもピタリとはまるような、そんな音だった。
「散らないといいね」
さくら、その単語に先輩が切ない気持ちをすこし含ませていて
私は先輩のビニール傘に張り付く薄桃をそっと見た。
「そうですね」
雨の日。
雨が降っていて、土の湿った匂いがして
それでも春のあたたかさがそこにはある。
さくらと、柔らかくて小さな花びらと。
隣には先輩。
私より背がずっと高くて、黒髪は柔らかそうで、いつもラベンダーのいい匂いがする
そんな先輩。
「じゃあまたね、宮原さん。風邪、ひかないように」
「はい、先輩も」