プルースト

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先輩と別れてから、家に帰って傘を閉じてはた、と気付く。
傘の柄の部分に黒いマジックペンで、「橘 恒生」と書いてあることに。
その字は見慣れた恒生のもので。

くふふ、と小さな笑いが思わず漏れてしまう。
金髪の校内不良が自分の折り畳み傘に記名しているその事実がとてもかわいくて。


先輩も傘に記名したりするのだろうか。
今日初めて見た先輩の傘はビニール傘だったから、ビニール傘に名前を書いていたらすごくすごくかわいらしく思ってしまうだろう。


私はまだ先輩のことを何も知らない。


桜よ散らないでと静かに祈る。
桜の心配をした先輩。
図書館の前で桜流しに足を止めた私。


桜さくら。小さくて柔い薄桃色は、まるで私の心の中みたいだ。
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