プルースト
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春はあったかくて、眠さを誘い、気持ちがふわふとする。




四月の麗らかな気温はやがてぐんぐんと高くなり、日を重ねるごとにシャツに汗がにじむようになる。

五月、六月の雨を過ぎ、ふと気がつけば夏が眼前に迫っている。


「なんだか季節はせかせかしているね」

「せかせか…春が押しつぶされた気がします。ちょっと暴力的なほどに」


日も伸びて、私と先輩の帰り道もぼんやりと明るさが残るようになった。


「夏空が近づいているみたいだ」


先輩に言われて空を仰いだ。
蒼碧と薄桃と濃紺の綺麗なグラデーション。


「夏、ですか」

「そ。夏がくるって昔はいつもわくわくしていたんだ。何かが始まりそうって。そんなことないって今なら分かるけれどね」

ワクワク、か。わくわく。

そんなことないですよ、と呟く。



先輩がわくわくするっていうなら
きっと夏はわくわくが詰まっています。
楽しみですね、夏。


だってほら、こんなにも先輩とどんな夏を数えられるのかわくわくしている私がいる。



先輩がからからと笑った。
先輩の笑い声はすこし乾いていて、とても温かみがある。
からから、からから


「ああ。楽しみだね、夏」



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