プルースト
◇ 恒生
「おーい恒生。お前、祭りの手伝いくるんだろうなあ?」
相変わらずでけぇ声だな、なんて思いながら声のした方向を向く。
どしんどしんと床を踏む音がして案の定、残念なほどその声にぴったりのむさ苦しい顔が眼前に。
「えぇー行かなきゃダメ?」
怠い。そりゃあもうめちゃくちゃ怠い。
なんだってこんな夏迫る暑い日に昼間っから夏よりも熱い男と対面しなくてはいけないんだ。
「なんだお前、祭り楽しむ情緒的な心なんて持ち合わせてないだろ?」
その男は太い眉を押し上げてにやあっと小馬鹿にしたように笑った。
「人のことなんだと思ってんだよ…」
ため息しか出ない。
毎年この辺鄙な片田舎のさらに奥にある神社で開かれる夏祭り。
こんな田舎だというのに、この神社の規模は県内有数で、実は夏祭りには県内からもたくさんの人が来る。
数少ない名物だ。
夏の暑さもこのむさ苦しい声と顔で余計に暑くなる…
お前のせいで暑いんだからな、とそんな思いも込めて睨みつけるが奴はものともしない。
橘 隼人。俺の母さんの弟だ。
The 漢を体現したような奴。
加えて奴はまるで父親のように口うるさい。