プルースト
II. summer
暑い。溶けるように暑い。
もしかしたらもう体の一部は溶けかかっていたりして。こんなに暑いなんて地球は大丈夫だろうか。北極の白熊も泣いているはずだ。
そんな馬鹿みたいなことを思いながら、プシュと音を立てて三ツ矢サイダーの蓋を回す。
蝉時雨が脳内までわんわんと響く。
細めていた目をぐっと持ち上げれば焼け付くような日光。
胸いっぱいに広がる爽やかな暑さと
遠くに高く見える背の高い入道雲。
「あっついねー」
そう言いながらぱたぱたと下敷きで風を送り込み、だるーんとした声を出すのは
くすんだモスグリーンカラーのベンチに腰掛ける中学時代の私の友人。
「ほーんと田舎すぎてファミレスも近くにないなんて嫌になっちゃうね」
そう言いながらごきゅごきゅっと音が聞こえそうなほど豪快に、私が開けた三ツ矢サイダーを飲み干す、りっちゃん。
「そうかなぁ…私はわりと夏すきだよ」
そう返すとええーっとこれまた豪快リアクション。リアクション芸人でも目指すつもりなんだろうか。
「つむぎ、夏が好きそうな感じじゃなかったよね?どっちかといえば春じゃないの?意外だな」
「もちろん春も好きだけど…でもなんだか夏ってわくわくしちゃって」
夏がわくわくするといった先輩を思い出す。
ふぅん、と言ったっきり黙っていたりっちゃんは、にやりと笑って
「ねえ、つむぎ、彼氏できた?」
と爆弾を落とした。