プルースト
先輩。
同じ学校や職場に先に入った人。
広辞苑による定義だ。
会社の上司然り、部活の年上然り。
でも、先輩は決して同じ学校の人ではない。
広辞苑の定義に反する呼び名を使っている気もするけれど。
でも先輩は先輩だ。
私の脹脛で揺れる細いプリーツのセーラーは、この田舎町から電車に乗って五つ目の駅近くにある極々平凡な高校のもので。
私と同じ学校の、これまた極々平凡な男子はみんな詰襟の学ラン姿だ。
いかにも、田舎といった具合に。
先輩はそれよりもっと洗練された四つボタンタイプのブレザーを着ている。
四つボタンどころかブレザーでさえ、県中心部の栄えたところにしかない気がしてしまう。
ブレザータイプの制服は、強いて言うなら、先輩と同じ四つボタンタイプのブレザーは、
私の憧れだ。
「宮原さん、今日、部活は?」
「今日はおやすみなんです。顧問の先生がいらっしゃらないから」
「そう。それでいつもよりちょっと早めなんだね」
先輩。
その四つボタンブレザーでわかる。
都会から離れた寂れた田舎町であるここではめったに見ることのない四つボタン。
県の中心部にある名門名高い高校だ。
先輩が頭がいいのはなんとなくわかる。
いつも図書館で勉強しているし、言葉遣いや振る舞いににじみ出ている気がする。
ただ、先輩にはそんな名門校に通えるような頭があるってことを鼻にかけたりしない、謙虚さもあって
私は先輩のそんなところがより一層好ましく感じる。
夕方の優しい光が窓から差し込んで、
先輩の柔らかそうな黒髪を栗毛色に染め上げている。
少し俯くたびに額にかかるその髪を
一回で良いから掬い上げてみたいと思ったことは今まで何度もある。
先輩にはもちろん、言えないけれど。