プルースト
さとう あお。
それが先輩のフルネーム。
あお、が果たして青なのか蒼なのか碧なのか、もしかしたらカタカナでアオなのかも分からないけれど。
さとうを砂糖って表記することはまず少ないと思うから、苗字の方は佐藤で決まりだろう。
県内で一番頭の良い高校の三年生。
この寂れた片田舎から毎日電車で一時間半かけて通っている。
高校の剣道部をこの春引退予定。


私が先輩のことをこれくらいしか知らないし
先輩はきっと、もっと私のことを知らない。




先輩とは日にちを決めて会っているわけではない。

田舎の電車で鉢合わせたり、帰る方向が同じだったり、よく町の図書館を利用したり。

そういう些細な偶然が積み重なった何でもない関係。
なんでもない、という宙ぶらりんさが心地いいこともあるし、確定した何かでないことに寂しさを覚えることもある。



町唯一の図書館。
入り口から一番遠い、奥ばった箇所に他と離れてひっそりと設置されている日焼けた木目の四人用机と椅子。


そこが私と先輩の定位置だ。

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