プルースト
「つむちゃん今日は何読んでるの」
それ、と指差されたのは膝の上に置かれた文庫本。電車の中、休み時間、私はどこでも本を読んでいる。
というイメージがあるらしい。
よく知らないけれど。
学校の友達はみんな携帯を所持しているが、私の家は高校生にもなって携帯使用許可が下りずにいる。
だから私は周りの人のように、電車の中で携帯をいじることができないのだ。
要は傍に控えている本たちは私にとって携帯の代わり。なくてはならない必需品ってわけ。
「夏目漱石」
「また難しそうなの読んじゃって。
あ、もしかしてあれか?今授業でやっている話の」
「もう、それは森鴎外でしょう。舞姫。最初のテストに出るはずだよ。恒生、大丈夫?」
「いや、似たようなもんだろ。どっちも」
「全然違うよ」
幼馴染。
校則違反の金髪と、右耳に空いた二つのピアス穴。見てくれは正直怖いけれど、そんな奇抜な格好も似合ってしまうルックスで学校では人気者。
橘 恒生。
軽口を叩ける数少ない友人だ。
幼馴染と言っても、家が近くなわけではなく、単に幼稚園が同じだっただけで小学校も中学校も違ったから、高校で再開したばかりなのだけれど。