ホタル
4年前のお盆、私と約束をしてこの小川に来た一縷くんは、雨で増水した川の流れにのまれて、そのまま行方不明になってしまった。
警察の捜索の末、川下の方で、冷たくなって、岸に流れついている一縷くんが見つかった。
「もう、4年も経つんだね。」
「うん。やっと、順番が来たみたいでね。…次も人間がいいかなー」
「ふふっ…呑気だなぁ…」
「だって、奏ちゃんにもう2度と会えない、とは決まってないでしょ?
絶対、また会いにくるよ。」
「…待ってる。」
「…奏ちゃん、泣かないで。
また俺が泣かせたみたいになるじゃん。」
「え…?」
彼に言われて、自分が泣いていることに気が付いた。
「あ、れ…?」
泣くつもりなんて無かったのに…
一度出ると、後から後から溢れ出してくる。
「ご、ごめ……なんか…グスッ…わ、笑って送ろうと…思ってた…の…っ!」
途中で唇を塞がれた。
「……ふっ…んっ……」
長く甘いキスの後、名残惜しそうに唇が離れる。
「ごめんね、急に…」
「う、ううん!
…嬉しかったよ…」
2人で茹でダコになる。
「……奏ちゃん」
「はい」
「俺はずっと、ずっと……
奏ちゃんを、愛してる」
その言葉の後、一縷くんの身体がだんだんと透けていく。
「私も!一縷くんのこと、好き!大好き!……愛してる!!」
徐々に遠くなっていく彼に届くように、必死に叫ぶ。
「今まで、本当にありがとう、奏ちゃん。ひとまずお別れだね。絶対、また君に会いにくるよ。
だから…笑って!」
私は、今自分が出来る最大限の笑顔を見せた。
きっと、涙や鼻水でぐっちゃぐちゃだろうけど、それでも私は笑う。
「またね、一縷くん!元気でね!」
「またね!奏ちゃんも、元気で!」
一縷くんは、光の泡となって、夜空に消えていった。
あの星たちは、きっと先に逝った人達なんだな、と思った。