緋女 ~後編~
「私はライサーが会いたくないと言うなら会わないけど、そうじゃないでしょ?」
そりゃあ、私はたくさんライサーを傷つけた。それに私がいなくなってもライサーは頑張っていける。私も絶対ライサーが必要なのかと聞かれたら答えはノーだ。
それに、ライサーを見守るのは私だけじゃなかった。
いつだったか、盗み見たあの男こそライサーの一番の味方なのだ。
でも、それでも___
私の人生で初めてできた友達、ライサーをほんの少しでも笑顔にできるなら私は会いに行きたい。
頼ってくれる誰かがいるなら、私はその人の力になる。
それが私の正義であり、至上の喜び。
王子相手に傲慢だと思われてもいい。婚約者という立場を利用できるなら、そうしよう。
「私にもう一度機会を頂戴。今度は王子を悲しませたりしないから」
この人が反対するなら、信用されるように努力するだけ。
「………」
答えはなかったが、その代わりのようにぎゅっと後ろから抱き締められている腕が強まった。
今すぐ振り返って、そのおしゃべりな瞳をのぞきこみ、その真意を知りたい。が、それが今は出来ない。
だから、彼が今どんな感情をもてあましているのか、私には分からなかった。
だが、そんな私の一言に揺らぐケイでもないのは確かだろう。
今日はここまでか。
「………ケイにいいって言われるまでは会わないから」
とりあえず、ケイが安心できるような約束をした。私のケイに対する誠意。
だって、そもそもケイが連絡とってくれないと、ライサーに会うことなど不可能だ。
それでも約束すること。
それが学校で私が学んだことだった。
「あっ」
ほんの少ししか経っていないのに懐かしい感じがする、城の形。
そこで、まだ言ってなかったことを思い出した。
「ただいま」
ケイの腕に抱かれたままの私は呟いた。
私の帰る場所はきっとこの腕の中にあるから。