緋女 ~後編~
彼女による影響
彼女の部屋に着き、彼女の希望でお茶をする。前と何も変わらない関係。眼鏡とかつらをテーブルに脱ぎ捨てた彼女は、相変わらず無駄に綺麗だ。
制服姿も、何だか新鮮である。
「ケイ?」
突然学校での話をきって俺のことを呼んだ彼女に、ぼーっと彼女を見ていたのに気づかれたと思った。
「夕食はまだですよ」
「別に、そんなこと聞いてないんだけど………」
俺が誤魔化したことに気づいているのかいないのか。
私をなんだと思ってるの、なんてぶつぶつ文句を言う彼女を今度はバレないように盗み見た。
この短い離れていた間も彼女はなんら変わっていない、そういう確信が欲しくて。
「あっ、でもそうね。今日は私がご飯つくってあげようか?」
「………料理なんてしたことないでしょう?」
俺は冷めた目を彼女に一瞬くれる。
口だけ達者で、この世界のことを何も知らない彼女。なんにも出来ないはずだった。料理も勿論。
そうだ。
彼女は出来ないことをしようとするような馬鹿のまま。
きっと、そう___
「あるよ」
真っ直ぐ見つめてそう言う彼女を俺は目の端でとらえた。
「………一度や二度のことを言ってるのなら、そんなの料理できるとは言いませんよ」
「いや、ケイに会うまで毎日つくってた」
事も無さげにそう言う彼女を俺は知らないし、気に入らない。
俺はティーカップを置いた。
きっと、今飲んだところで不味いだけ。
「言っていただければ、今までもお任せしましたのに」
「だからよ。ケイにつくって欲しかった」
「………では、今さらなぜ?」
なぜ、今さらになって彼女がこんなにも遠く手の届かない存在に感じるんだ__。
「ケイにつくってあげたい気分なの」
そう笑った彼女は、とても清々しかった。
とてもまぶしい___。
そう考えたとき、脳裏に学校で会った二人の人物がよぎった。
彼女を迎えに行った時から、俺は底知れない不安を感じている。
あの時、彼女を自分から遠くへやったのは間違いだったのではないか、と。