緋女 ~後編~
そんな想いを振り払うように俺はティーカップを片付けたが、それもすぐに終わってしまい、キッチンから戻ってきてもやはり彼女は勉強していた。
俺は手持ちぶさたにだった。
別に暇人という訳ではない。
この部屋を一歩出れば、出来ることはたくさんあった。が、彼女を置いてそれは出来ない。
しかし、今日の予定を空けるために、臣下としての書類仕事は全て前倒しに進めていたし、計画も着々と整っていて今やることもない。大体、計画の方を進めるのはシュティ・レヴィアのいるここでは出来ない。論外だ。
料理だって、彼女がするなら俺はいらない。
俺は、いらない。
「ケイ?」
ぼーっと突っ立っていたところを彼女に呼ばれて、肩がはねた。
「………なんでしょう?」
目が合う。彼女は勉強のために俺があげた眼鏡をしていたが、それでも彼女の目は俺を不安にさせた。自分の全てが見透かされている、そんな気がするからだ。
「ここ、教えてよ」
ほら。
そう俺の欲しい言葉をくれる彼女には、俺の全て見透かされていてもおかしくないだろ?
でも駄目なんだ。駄目なんだよ。
でも、この名無しの想いだけは知られてはいけない。
だから、今日で終わりにしよう。
今日が終わったら、今日が終わってしまったら___
俺は彼女に何も求めない代わりに___何かを与えたりしない。
「また、ぼーっとしてる。大丈夫?」
「………貴女に心配されるなど私も落ちたものですね」
「またそうやってバカにして。で、教えてくれるの?」
「教えてメリットがあるなら教えて差し上げますが、それは私の仕事ではもうないので」
俺は覚悟を決めた。
「代わりにと言ってはなんですが、どこかに出かけましょうか?」