緋女 ~後編~



「えっ?」

予想外だと顔に書いてある彼女に、俺はたぶん笑ったんだと思う。

「嫌ですか?」

さらに目を見開いた彼女は次いで首を横に振る。何度も何度も。けど、それが嫌じゃないという意味なのか、俺には絶対の自信がなかった。

そうして困惑していた俺に、はっと気づいた様子の彼女は、はっきりとその意思を伝えた。


「行きたいっ」


手放しで喜ぶ彼女はやはり以前とは少し違った。そう思ったのは、以前の彼女が自分に起こる良いことに対して、少し臆病な人間だったからだ。


今の彼女は自分に素直だ。言いたいことを伝えるのを恐れてない。俺は彼女に言いたいことを伝えるのが一番恐いというのに。


「どこに行く?」

「レヴィア様のリクエストがあれば」


「じゃあ___」



これと似たやり取りを嘗てしたことを彼女はまるで覚えてないのだろう。

でも、俺は知ってる。


彼女はこう答えるはずだ。




ケイの一番好きな場所。
そしてそれは俺の一番好きで嫌いな場所だった。



でも、俺の考えは甘すぎたのかもしれない。彼女はもう今までの彼女ではないことを俺はまだまだ分かっていなかった。



「ケイと前に行った場所」



俺はたぶんこの瞬間を永遠に感じていた。



「…………は?」



「ケイと前に行った場所、全部ね?」





この時、俺は彼女のことがまるで分からなくなった。




彼女がそれを望むなら鏡の池を一緒に見に行こう。その時、彼女になら俺の影を紹介してもいい気がする。彼女は手料理を振るえなくて残念がるかもしれないが、城下町のたくさんの店でご飯を食べ歩くのも楽しそうだ。





でも後は?
死色の桜を、彼女は覚えてるのか___?


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