緋女 ~後編~
「ショウ、そろそろ行くけど?」
「えっ、あーうん」
さっきまでレン先生に体術の練習相手をしてもらっていたレヴィは、いつのまにかタオルで汗をふきながら水を飲んでいた。
それを横目で満足げに見ているレン先生の額にも、少し汗が滲んでいる。
僕はため息をつきたくなった。
レヴィはまたいつの間に腕を上げたのか、と。
どんどん成長していく彼女に胸が騒ぐ。
「あっ、レン先生も来るんですよね」
「あぁ」
さも当たり前のようにレン先生が頷く。
今、レン先生が彼女の中に誰を見ているのかなんて、聞かなくても分かりきってるし、それが僕にとってプラスにもマイナスにもなることも知っている。
それにもはやレン先生のその想いを止めることは、僕には不可能だろう。
先生と引き合わせたのは僕だけど、あの時のレヴィはレン先生にそこまで想わせるものなどないと思ってた。
誤算だ。
「じゃあ、行こっか」
迎えは午後二時。
その二十分前、僕たちはレン先生の部屋を後にする。
僕の知らないところで狂い始めた歯車は、止まらない。
支配したはずの運命は、もう僕の手の中にはおさまってなんかいなかった。
最近夢に見る。それも酷い悪夢。
レヴィが泣いている夢。
手を赤く染めて、誰かのために泣いている。ずっとずっと、ごめんとそう小さく呟いて。
そして僕はそんなレヴィを責めるのだ。
なんで僕以外の人のために泣いているのかと。
あぁ、なんて酷い夢なんだろう。