緋女 ~後編~
「ゴルの上はサイコーね」
私は叫んだ。そうじゃないと彼に言葉が伝わらないような速さで飛んでいるから。
何かしゃべってないとやってらんないっていうのもある。
別に高いところはあまり怖くはないんだけど、振り落とされそうでそれが怖かった。私を唯一繋いでいるのはケイの腕だけだ。
背中からまわされた手が気恥ずかしくて、でも温かい。
ショウとケイがどういう知り合いだったのか、私が聞くことはなかった。たぶん、知ってはいけないことなんだと思う。
でも、知らないままを良しとしているわけじゃない。
聞くタイミングもあるだろうって話だ。
「そういえば、ケイ。どうやって、ここまで来たの?」
当たり前のようにゴルに乗って帰っているけど、ケイだって何かに乗ってきたはずなのだ。
まさか、城から歩きなんて出来たとしても時間の無駄すぎる。
「貸し出される、城のペガサスに乗ってきましたけど」
耳許でそう低い声が言った。
失敗だ。こんな近距離で喋られるとドキドキして少し困ってしまう。
こんなにも何の感情もない声なのに、おかしな話だ。
「ふっふーん。………って、えっと、そのペガサス勝手に帰っちゃったの?」
ペガサスがあるなら、私とこんな密着することもないのだ。きっとどこかに行ってしまったに違いない。
今度は少し間があった。
「___まあ、そんなところですね」
妙に歯切れの悪い答えに、私はそれが事実ではないことを知った。
でも、決して自惚れたりなんかしない。
私の近くにいたかったなんて、そんな私にとってだけ都合のいい理由なんかではないのだ、きっと。
「…………」
会話が止まった。いや、私が一方的に話しかけていただけなんだけど。
そういえば、ケイは私の記憶が戻ったこと気づいただろうか?
言った方がいいのか、悪いのか。
でも、もう忘れるなんてごめんだ。
あれは私にとって嫌な記憶というだけじゃない。
戻ってきた記憶の中に私がケイを好きになっていった過程があった。
そんなの忘れたくない。